Tourist History/Two Door Cinema Club
たいへん今さらではあるが、昨年けっこう評判のよかった、Two Door Cinema Club(以下TDCC)のデビューアルバムを買った。
- アーティスト: トゥー・ドア・シネマ・クラブ
- 出版社/メーカー: Pヴァイン・レコード
- 発売日: 2010/02/17
- メディア: CD
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パリのレーベル、キツネが大プッシュしたバンド。というと、オサレ〜なダンスアクトを想像してしまいがちだけれども、彼らはギターバンドといったほうがしっくりくる。00年代半ばからロックとダンスのクロスオーバーなんてのは盛んに言われていて(ずいぶんと古い話してますが)、ロックバンドのフォーマットでダンスミュージックにアプローチするバンドはいっぱいいたわけだが、TDCCもそうした流れから生まれたダンサブルなギターロックを鳴らすバンドととれるかもしれない。でも彼らの場合、意識的にダンスミュージックのビートを取り入れているというのではなくて、最初からそういうビートが彼らの中に染み込んでいるというかんじがする。スタート地点の段階で、もうそれは当たり前のことになっているというか。ロックとダンスをぶつければ何かが生まれるというような時代は終わって久しく、それを前提とした上でどう聴かせるかがポイントになっているから、目新しいことは何もしていない、むしろ型としてはニューレイブ以降定番化したことをやっているんだけれど、どの曲もソングライティングがしっかりしていておもしろいのだと思う。
メロディとギターがともに浮遊感があってよいのだけど、特にギターがフォールズみたいで好きだなあと思っていたら、やっぱり本人たちも近いものを感じているらしい。ドラムレスの3ピースバンドで(ドラムが脱退してからメンバー入れないままやってるらしい)ギターが2人いて、その2つのギターがそれぞれのメロディを奏でながら、つかず離れずで進行していく。その時折交わる波形がとても美しいし、音が直線的でなく広がりがある。
これは6曲目のSomething Good Can Work。宙を漂うようなギターがいい。
アルバムの曲順もけっこう気に入ってる。前半にキャッチーでポップな曲をかためて後半に失速してしまうアルバムってけっこうあると思うんだけど(ドラムスとか)、これは4、5曲目あたりで余裕を持たせてから後半で疾走し、9曲目で頂点を迎えるようになっていて、一瞬もダレない(もちろんどの曲もいいから成せることだけど)。
9曲目のEat That Up, It's Good For You。アルバムトータル40分台だと思うんだけど、飽きる瞬間がないので本当にあっという間に終わる。かなり均整のとれたフォルムをしていると思う。それゆえにちょっと収まりがよすぎる気がしないではないけど。
メンバーのルックスやPVも含めて、新しいもの、見たことのないものは全然見当たらないんだけれど、かといっていろんなものを切り貼りしたパッチワークっぽさもまったく感じなくて、これが音楽を鳴らす上で彼らが自然に選び取った形なんだなあと思う。こういう音を鳴らすバンド自体は以前から少なくないけど、それを意識的なスタイルとしてやらずに、一つのフォーマットとしてさらにそこからいい曲を作っていこうというバンドは、これまではなかなかいなかったんじゃないだろうか(いや、いたことはいたけれども、若い世代の感覚として、ロックとダンス云々ということよりもそれは前提とした上で曲のよさ、楽しさを純粋に求めるほうに意識が完全にシフトしたのではないかな、という追記)。そういう意味では時代は上書きされているというか、単に目新しいものがないからといって停滞とは言えないよなあ。ここには時代の線引きがちゃんとあって、これが今の(というか2010年の)気分なんだろう。はじめからダンサブルなビートは自分たちの中に染み込んでいて、それを出発点として、おもしろい、楽しいものを作っていこうっていう。これはいわゆるエポックメイキングな音とはかけ離れているかもしれないけれど、今の若い世代の感覚を捉えていると思うし、NMEのリーダーズ・チョイスで1位になったのも至極当然のことと思う。