パニック・フライト

パニック・フライト———シンプルにして絶妙にB級臭のする邦題がナイスです

DVDスルー作品というのは往々にして邦題がアレだったりしますが、その中ではコンパクトで内容を簡潔に伝えている(厳密にはパニックなフライトではないと思うが)本作のそれは、いかにも「小品」というかんじはしますが、なかなかうまくいったほうでしょう。原題の「Red Eye」では何が何やらわからぬし。キャストはレイチェル・マクアダムスキリアン・マーフィとけっこう華やかですが、特に大きく売り出すポイントもないし(逆に「キック・アス」なんてブラピとニコラス刑事の名前出しときゃいいんだから)、やはり「小品」なので、いかにもDVDスルーされてしまいそうな作品ではあります。しかし内容から考えると、それはもったいない。最初から最後まで楽しい、緊張感たっぷりのサスペンス。意外にも濃密で、かといって重くはない、満足の85分です。

あらすじについてはまったく知らないで観たほうが絶対楽しいのでここでは触れないようにしましょう。邦題から想像すれば、まあそんなかんじだと思う(笑)。簡単に言うと、旅客機を舞台にしたスピーディーなノンストップサスペンスです。

とにかく、レイチェル・マクアダムスキリアン・マーフィが最近気になってますという人は絶対に観たほうがいい作品。この二人はほぼ出ずっぱりだから。最近キリアンが気になってしょうがない私などは見事にハマりましたよ、ええ。舞台はほとんど旅客機の中だけ、台詞の85%がレイチェルとキリアンの会話という密室劇です。

(こんなやりとり嫌ですねー……笑)

こういうのは役者としてはかなり難しい、しかしやりがいのある仕事だと思うのだが、二人ともいい演技をしているし、この組み合わせ自体がナイス。役柄にぴったりあったキャスティングで、二人のバランスもよく、端からは美男美女のカップルに見える。やりとりが絶妙でしっかり緊張感があります。この作品はとにかく「緊張感」が命だと思うのだが、二人はそのために与えられた役割をしっかりこなしています。

レイチェル・マクアダムスは特にファンでもなく、他の出演作は「シャーロック・ホームズ」くらいしか観たことがないのだが、この作品でのシャキッと力強くプロフェッショナルな女性役はいい具合にハマってました。普通にキャリアウーマン達に馴染めてしまいそうなところがいいなあ。美人なんだけど、いわゆるスターの派手派手しさ、取っつきにくさがなく、近所に住んでるデキる綺麗なお姉さんってかんじ。

キリアンは場面によっていろんなふうに見える顔。そこがいいです。美形なんだけどなーんか怪しい匂いがするのがたまらない。序盤は好青年、中盤以降はほんとに危ない人に見える。計算高そうで、でもどこか抜けていそう。二面性のある人って魅力的です。この作品で演じた役は、まさに彼のそういう魅力を活かしています。

主演の二人以外の登場人物、旅客機の他の乗客やレイチェル演じたリサのお父さん(なんとブライアン・コックス)などは、台詞も少なく出番もほとんどないのですが、要所要所でみんないい働きをしています。リサの同僚、シンシア役を演じたジェイマ・メイズの困った表情、オロオロした動きがいい!そして注目すべきはドラキュラペンです。いっそ邦題「ドラキュラペン」でいいんじゃね?ってくらい重要。嘘、冗談。でもドラキュラペンが重要なのは本当。

スリリングな密室劇のまま話は進み、着地点はどうするんだい?と思ったら、ラスト20分はアクションで突っ切る構成。おもしろい。ここからはサスペンスというよりスリラーで、キリアンが怖すぎます。怖いけど、弱すぎます。一方レイチェルは強すぎます。このラスト20分はドキドキハラハラすると同時に笑いそうにもなりました。この作品は笑ってしまうようなシーンがいくつかあり、基本的な設定やキリアン側の思惑、行動もよくわからなかったりします(もっと合理的なやり方あるよね)。しかし、個人的な考えですが、そうした欠点があっても作品を観ている間はそれが気にならず十分楽しめるのであれば、それは少なくとも私の中ではいい映画です。だからこの作品も、85分飽きさせず楽しませてくれたから、いい映画。DVDスルーはもったいない。

しかしこの作品のおかげでさらにキリアン熱が上昇してしまいました。今さらキリアンにハマるなんてね……人間ってよくわからない。

このDVDを貸してくださったvertigoさん、ありがとうございました!楽しませていただきました。